特定保健指導成功事例~(社)日本橋医師会~

平成20年4月にスタートした特定検診※だが、これをいち早くモデル化し、成功と呼べる実績をあげた医師会がある。お江戸東京の中心、公益社団法人日本橋医師会(会長 早川篤正)だ。日本橋医師会では、特定検診が制度としてスタートする1年前からモデル事業としての準備を進めた。その事業モデルの柱は、"アウトソースを併用した特定保健指導"にある。初回面接後の約6ヶ月に渡る継続支援を外部委託するというものだ。

日本橋医師会、庶務・渉外担当理事の木村暢考氏はこう語る。「この事業のモデル化は、大辻正高会長(当時)が提案されました。その後、浜口伝博理事が主導となり、平成20年度より本格的に展開。多くの企業に面接を行い、最終的には株式会社マベリックトランスナショナル(東京都千代田区、代表取締役平山浩一郎)にお願いすることにしました」

モデル事業が創り出した成果は、何といっても医師の負担軽減である。通常、開業医の仕事は早期診断治療と予防医療に分けられる。現場ではそのほとんどが前者であり、あらたな予防医療の取り組みは負担が大きい。しかし、保健指導の初回面接は医師が行わなければ効果はない。そう考え、初回面接はかかりつけ医で行い、医師会ではその後の継続支援を外部委託し、医師の負担を軽減した。この外部委託は、専門家の確保という点でも効果的だった。医療機関や医師会が、突然始まった特定保健指導事業に対して、必要な看護師、栄養士の確保や育成をすることはかなりの負担だったのである。これが委託によりクリアされたことも成功の要因であり、さらに、健康生活ナビ特定保健指導ASPサービス(開発元…株式会社ヴァル研究所)を保健指導のツールとして導入することで、シームレスな取り組みを実現できたのだ。

これにより、日本橋医師会は平成20年度では、脱落者ゼロ(受診者60名)という実績を出すこととなった。
ここで押さえておきたいのは、目標をどこに置くかだ。特定保健指導には「受診率」「達成率」「有効性」という3つの目標があり、どこに焦点を合わせるかによって取り組みの内容が変わってくる。通常、「受診率」「有効性」に目を向けるが、日本橋医師会では「達成率」の向上を目指した。「受診率」が上がれば「達成率」は下がってくる。しかし、指導内容を達成できなければ意味は薄い。日本橋医師会では、受診した対象者に最後までメタボへの取り組みを達成してもらうという仕組みを採用した。そのことが、有効性につながるのである。

「特定保健指導で一番大切なのは初回面接です。医師が初回面接を行い、メタボの危険性と改善の必要性を説明することが、受信者の一番の動機付けになります。さらに、途中の継続支援に関しても、医師会が主導になって行っているということを認識してもらうことが意欲向上と安心につながるのです。我々かかりつけ医は、このような特定検診の活動を積極的に行い、メタボ検診を幅広く啓蒙していかねばなりません」と木村氏。

その一方で、これまでの住民検診が特定検診とそれ以外の検診に分けられ、受診率が低下してしまったことを課題として挙げた。
「医療情報は病気においても検査においても、バイナリ(0か1か)なとらえ方では処理しきれない。医療情報とはアナログ情報なのです。特定検診・保健指導の報告がデジタル形式に指定され、医療機関の混乱を招きました。この情報の処理のために、今後問題が生じてくる可能性があると思います」と木村氏は無理なIT化に警鐘を鳴らしている。
とはいえ、IT化が進む今日、対応を余儀なくされる医療業界での課題もまだまだ多そうだ。

(社)日本橋医師会 庶務・渉外担当理事
トルナーレ内科(浜町センタービルクリニック分院)院長 木村暢考氏

LAZER 2010年8月号 掲載

特定検診(特定保健指導・特定健康保険指導)とは

平成20年4月より施行された、40歳~74歳までの医療保険加入者を対象とした、健康診断や保健指導の新しい制度のことで、一般的には「メタボ検診」と通称されています。
特定検診・特定健康保険指導の目的は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の該当者やその予備軍を見つけ出し、生活習慣病の発症を未然に防ぐために、対象となった人に対して保健指導(生活改善の指導)をするというものです。
「特定検診・特定保健指導」は厚生労働省の管轄のもと、企業の健康保険組合や国民健康保険(組合)、つまりすべての医療保険者が実施の義務を課せられています。